LPOP blog

「オタク」×「性」を追求する、同人サークル「LPOP」のブログ

これを読めば『抜いた記録』が100倍楽しめる(?)制作過程を大公開!【後編】

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前回の記事に引き続き、『抜いた記録』の制作の裏側を大公開!という事で、後編では実制作における苦労やこだわった点などのお話をしたいと思います。

前編はこちら↓

後編はある意味本のネタバレ(?)のような側面もあるので、まだ読んでいない方はじっくり本を読んでみて工夫したポイントを探してみてからこの記事を読んで頂けると、答え合わせになって面白いかもしれません。

抜いた記録の制作過程について

前編では、C94で上手く行かなかったことにショックを受けつつも、C95で抜いた記録を出す決意をする…というお話でした。

ここからは抜いた記録の実制作のお話になります。

C94では何故失敗したのか?原因を探る

抜いた記録で再び同じ失敗は繰り返したくなかったため、C94でSILICONE STYLEがあまり手に取られなかった原因を考えることにしました。

結論としては、以下の理由に集約されると思っています。

見た目で何か分からない

まず1つめは、SILICONE STYLEはB4の三つ折りに帯をかけた状態での頒布だったので、「頒布物」として認識されなかったという問題がありました。

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実際、スペースに来ていただいた多くの方は、既刊は試し読みしてみるものの、SILICONE STYLEには目もくれないという状況でした。

特にコミケのような大規模なイベントになると、来場者目線で一目見て何か分からないような物は、既存ファンでない限り手に取り辛いかと思います。

コンセプト(セールスポイント)が抽象的すぎた

2つめの問題は、あまりにもコンセプトが抽象的すぎたことです。

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そもそも同人誌を買う理由(動機)として、例えば漫画だったら話が面白い、絵がかわいい、クッソシコれる、評論情報本なら内容に興味がある、知的好奇心を満たしたい、他人に自慢したい…などが考えられると思います。

しかし、SILICONE STYLEのセールスポイントと言えばオナホールをいい感じに撮影して、なんかアパレル系っぽい装丁で写真集にしたら…なんか面白くない?」というふんわりしたものでした。

来場者の属性とマッチしていなかった

3つ目の問題は、来場者の属性とSILICONE STYLEのセールスポイントがマッチしていなかったという点です。

前述の2つの問題において、SILICONE STYLEは極めてハイコンテクストな作品だったと言えますが、恐らくそれでも刺さる層には刺さる作品だと思っています。

しかし、C94のLPOPのサークルスペースの配置はいわゆるアダルト評論情報系の島で、そこに訪れる来場者の属性とはマッチしていなかったと思われます。

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例えるなら、機能性に優れた服を買いにユニクロへ来る人に、機能性に乏しいハイブランド品を売り付けるようなものです。
(ちなみに、私は服はほとんどユニクロで買います)

これが仮にデザイン・創作系の島であれば、また違った結果になっていたのではないかと思います。実際、手にとっていただけた方の多くは写真活動をされていたり、デザインに携わられているような方が多い印象でした。

 

ーと言うことで、多くの方に手に取って頂くためには、漠然と「完成度の高い物を作る」だけではなく、しっかりと来場者の購買意欲に訴えかけるための仕掛けを考える必要があるのだと感じました。

 

ちなみに、SILICONE STYLEはメロンブックスBOOTHにて絶賛販売中です!!買ってね!!!(ダイレクトマーケティング

『抜いた記録』のコンセプト定義

C94の反省点を踏まえた上で、『抜いた記録』を失敗させないためのコンセプト定義を行いました。

大まかには以下のようなものに落ち着きました。

  • データ量(本の厚さ)で圧倒する
  • デザインはシンプルに、記録の重みを感じられるようなものに
  • 評論本として、知的好奇心が満たせるようなコンテンツも用意する

今回は企画自体がぶっ飛んでいるので、デザインや文体はひたすら真面目に、一切の遊びも見せないことを徹底しました。

もっとも、実際LPOPの活動やこの企画自体決して冗談でやっている訳ではなく、真面目な知的好奇心による活動なので、少しでもふざけてしまうとただのジョーク本になってしまい、私達の意図が正しく伝わらないと思ったからです。

装丁について

以上を踏まえ、装丁もコピー本やいわゆる同人誌然とした装丁ではなく、しっかりとしたオフセット本で製本まできちんとした状態にしようということになりました。

判型について

判型、本のサイズについてですが、一般的な同人誌としてはA5, B5, A4などが考えられます。

しかし、抜いた記録においてはデータを羅列するページが多くなることやページ数を考えると、小さめで読みやすく、何度でも気軽に読み返せるようなサイズにしなければならないと考えました。

そこで候補に上がってきたのが四六判でした。

四六判は小説の単行本やビジネス書などによく採用されているもので、B6より少し大きいサイズです。

手にとって読みやすいサイズで、真面目な本によく用いられているため真面目な雰囲気が感じられることなどから、抜いた記録では四六判を採用しました。

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初期の造本プラン
カバー・帯について

また、後述する本文用紙のこともあり、少なくとも2~3cm程度はある分厚い本になりそうだったので、カバーと帯は付けたいよね、という話になりました。

フラットでストイックでありながら、何かインパクトがありかつLPOPらしいデザインはないか…?と考えていたところ、デザイン担当から、「カバーにはめっちゃ細かい箔押しか何かをしてこの本の収拾をつけたい」という提案があり、高度な箔押し加工でおなじみ、同人誌カルチャーにも明るいコスモテックさん(@cosmotech_no1)に相談することにしました。

相談の結果、予算的にもなんとか収まりそうだったので、カバーの表1と背は全体が箔押し(タイトルと、超細かい文字)を施すことになりました。

(ちなみに箔押しができなかった場合は銀色の紙に白抜き文字を印刷しようかと考えていました)

 

何度かコスモテックさんとやりとりをし、その過程で文字のサイズや太さに関する現場からのアドバイスをいただきつつ、最終的に記号のサイズを和文の高さに揃えたり、和文に比べ形状が込み入っていない欧文の太さを細くしたり…といった微調整を加え、入稿。

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カバー入稿データ


実物を見て比較検討したかったため、当初こちら側で想定していた銀箔の他にも、いくつかの紙と箔色の組み合わせで校正サンプルを出して頂きました。

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グロスPP・シャンパンゴールド箔

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マットPPのものを実寸大に切り出したもの

限定版仕様として好評いただいたホログラム箔バージョンはコスモテックさん側からご提案頂いたものですが、校正サンプルの仕上がりを見て「これはすごいぞ…」と思い、急遽限定版として採用することになりました。

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グロスPP・ホログラム箔

ちなみに袖と表4は1色の銀刷(DIC621)、使用紙に関しては箔がちゃんと定着することが最優先条件だったことと、箔押しに予算を割いた分他の所でコストカットをしなければならない(ファンシーペーパーやアート紙は使わない)という2つの理由から、平滑度とコスト重視で普通のA2コート紙(雷鳥コート)にマットPP貼といういたって普通の仕様となっています。箔押しの版も一般的なマグネシウム版を使用しており、通常の箔押しに比べ何倍もコストがかかった……ということはありませんでした。

 

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結果として企画の強さに負けないインパクトの強いカバーとなり、作品のコンセプトを補強するバランスの取れた仕上がりになったかと思っています。

『抜いた記録』のカバーデザインは、この形以外は考えられなかったでしょう。

 

半年間に渡りデザインの検討からお付き合い頂いたコスモテックの青木さん、現場の箔押し職人の皆さん、本当にありがとうございました!

コスモテックさんによる『抜いた記録』紹介記事はこちら↓

 

帯についてもカバーと同時並行でデザインの検討を行いました。

帯は販促文言を入れる用途に加え、細かい箔押しの部分を敢えて隠すような仕上りにしたいと考え、一般的な縦幅よりも広い帯を付けることにしました。

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デザイン担当の作った初期案

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主宰が作った案

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主宰の案を元に整形したもの

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校正のための入稿データ

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校正の発注

帯もカバーと同様に紙と色のパターンをいくつか出しました。また、文言やフォント違いなども検討するため、デザインパターン自体も2種準備しました。

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帯も実寸大に切り出し、『抜いた記録』の想定仕上がりサイズと同等のものを本屋で見繕ってきて、カバーと一緒に巻き、完成品に近い状態で何パターンも比較しました。

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ちなみに、告知段階で使用した見本写真でも、実際には校正サンプルを本番と同様の組み合わせにしたものを用いています。

実際に仕上がった本を手にとったのは、コミケの前日搬入に行き、印刷所に搬入して頂いたものを確認した時でした。

 

こうした試行錯誤を経て、最終的には

カバー:銀刷+マットPP+銀箔(限定版はホログラム箔)

帯:銀刷+グロスPP

という形に落ち着きました。

やはり銀箔と銀刷が一番シンプルかつストイックなまとまりがあった(帯黒刷の場合、コントラストが強くなりすぎた)ことと、カバーと帯で質感の違いを出したいためこういった組み合わせとなりました。

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カバー+帯の最終イメージ

一般的な本であれば帯は捨ててしまう人も多く、ある意味販促POPのような意味合いが大きいと思いますが、抜いた記録は縦幅を広くしたこともあって、副次的な効果ですが読むときの邪魔になりにくいようにできたと思います。

帯をつけた状態でも書影として成立するようなデザインにしているつもりですので、
ぜひ帯をつけたまま普段読んでいただき、たまに帯をはずして超細かい箔押しを眺めたりしていただけると嬉しいです。

表紙について

カバーを外した後の表紙は基本見えない部分となるので、ここだけはちょっと遊んでしまおう!ということで、地券紙という普段は芯材や伝票等の台紙に使われる、箱ティッシュの内側のような灰色でやわらかめの紙に、蛍光色のTOKA FLASH VIVA DX 100 バッカスマゼンタという通常の蛍光色よりも蛍光感が強めのインキで印刷をしています。

 

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表紙デザイン案

 表紙もデザイン案を複数考えましたが、

  • 地券紙に蛍光インキだから、抜きにするよりも文字のほうを蛍光インキにしたほうが良いのではないか
  • グラデーションにするよりは中間階調を使わないほうが印刷も綺麗に出て映えそう
  • 少し角度を付けて躍動感を出し、カバーデザインとの対比を強くしたい

という理由から、このような形になりました。

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表紙入稿データ

実は、この表紙には『抜いた記録』の裏のテーマとなる隠しコピーが書かれています。皆さん気づかれたでしょうか?

 

「これは、平成の終わりに爪痕を残す、ある(オタク)の物語である。」

という文がそれにあたるのですが、これは抜いた記録を作るにあたっての私の意気込みを表したものです。

また、「物語」という単語が、この本の構成にも大きく関わる重要なワードとなっていますが、それについては後ほど…。

 

表紙は予算の都合上1色刷となったのですが、できれば先にオペーク(不透明)の白インキを2~3回刷り重ねてから蛍光インキを(できれば2回)刷れればもっとキモチワルイ感じにできたのではないかな…と思っています。

 

今回抜いた記録で使用した製本ラインでは、見返しをつけることが出来るとのことだったので、A2マットコートのユーライトを貼っています。

一般的にここはファンシーペーパーや、色上質紙をつけることが多いようですが、あえて白色度の高い普通のマットコートを貼ることで、カバーの白基調のイメージを本を開いた最初のページまで引き継ぐことができたのではないかと思います。

ユーライトはかなり青白く、マット感が強くしっとり系の紙ですので、過剰なくらいの清潔感も演出しています。

本文ページについて

構成・仕様について

最終的には抜いた記録は320Pとなったのですが、実は企画当初は上限256P程度の予定でした。(予算的に厳しいので…)

しかし、データ数からページ割を逆算して、このレイアウトでならページ数はこうで…という事を試行錯誤しているうちに、どう考えてもページ数が足りないことが発覚したため、ページ数を増やすことにしました。

 

最終的に目次を作ったのは内容が出揃って台割が確定した段階で、それまでは各コンテンツ部分を別々に作り、それぞれのページ数が確定した段階で扉ページや空ページの挿入などを行い、本の体裁に整えていくという流れで作業を行いました。

作業の後半のほうでは、「実際に本文ページを全てプリントアウトしてみて、本になった状態を想定して問題が無いか確認する」という作業を行っていました。

わざわざプリントアウトするのは、なるべく完成品に近い状態で確認したほうがイメージがしやすいためです。

こうして確認することで、

「ここは見開きで入れたいから、前に空ページを挿入しよう」

「各章の前には右ページに扉を入れたいから、ここは空ページを挿入しよう」

「ここはページが余って寂しいから、少し要素を足してみよう」

といったようなやり取りがやりやすくなりました。

データページについて

レイアウトについては色んな案が考えられましたが、作業量を考えるとパターン化しやすいレイアウトが良いという事であの形になりました。

書体の方向性もいくつか検討したのですが、最終的には最初に作成したラフに近い形に落ち着いたという感じです。 

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見出し部分もいろんな案がありましたが、最終的には主宰が出したごくシンプルな案が採用されました。

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データページ完成形

なおデータページのデザイン検討はIllustrator、実際の組版InDesignで行いました。

理由としては、大きな試行錯誤を伴うレイアウトの微調整は圧倒的にIllustratorの方にアドバンテージがあると考えているためです。とはいえ、特にIllustratorInDesignへの移行が簡単に出来るわけでなく、最終的にはIllustratorドキュメントを下に敷いてInDesignで再現するという手作業を踏むことになりました。もし何か良い方法があれば教えていただきたいです。

 

また、流し込み作業を一個一個手作業でやるのはどう考えてもしんどいし間に合わないなと思ったので、データページに関してはInDesignの「データ結合」という機能を用いて半自動化することにしました。

スプレッドシート黒魔術のようなものを使って、データ結合用のCSVファイルを書き出します。

この辺りは本業ITエンジニアである主宰の得意分野です。

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「作品詳細」の部分だけ手入力したかったので、それ以外のデータを記録から引っ張ってきて、データ結合用に整形しています。

また、

  • 1ページには5項目
  • 1回につき1項目
  • 抜いていない日も1項目

というレイアウトルールのため、自動的にページ数も算出することが出来ました。

5項目ごとに色をつけることで、実際にレイアウト後にデータの抜けなどが無いかも確認しました。

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黒魔術のような複雑な関数の組み合わせ

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CSV出力のためのスクリプト

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データ結合用のCSV

こうして書き出されたCSVファイルをInDesignで読み込むことで、テキストの流し込みなどを自動で行うことが出来ます。

 

実際にデータ結合を行う作業を動画にしてみました。

 

データ結合機能では同一デザインのグループを複数設定して、そこに順番に流し込んでいくということができず、同一デザインで内容違いをたくさん並べるには複数レコードレイアウトという機能を使うほかなさそうでした。

これは元々大量の名刺データ作成や定形レイアウトのカタログ作成などの"補助的な用途"で設計されているようで、マージンと間隔しか設定項目がなく1ページにつき何件をレイアウト、という設定はできません

 

どうしようかと悩んだのですが、ドキュメントサイズの縦幅を本の仕上がり判型よりもヘッダー分短く設定し、ヘッダー部分を除いたドキュメントサイズいっぱいにデータ結合機能で組版したものをPDFで出力、あとから別で編集用に準備した仕上がり判型のInDesignドキュメントに配置し、ヘッダー分とノド部分の位置をずらすことで解決しました。

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CSVの読み込みでエラーが出る場合、CSV文字コードUTF-16(ビッグエンディアン)になっていないという原因が大多数だと思うので先に適当なテキストエディタUTF-16にしておくことをおすすめします。

また複数レコードレイアウトを行う場合、見開きページではなく単ページモードにしておかないと当方の環境ではうまく行きませんでした。

 

細かい部分なのですが、作品詳細にURLが含まれる場合にそのURLの文字サイズを少し下げたかったため、流し込みを行う前に、正規表現を使いURLが出現した場合その部分の級数を下げるというInDesignの段落スタイルをテキストボックスに適用しました。

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ちなみに、InDesignに多ページPDFを配置する方法として、PlaceMultipagePDFというスクリプトが標準で準備されており、これを使用することで比較的スムーズに作業を行うことができました。

このようなワークフローを組むことで、最終的に手作業で行った作業は

  • 作品タイトルが長すぎてオーバーフローした場合の調整
  • 作品タイトルの後に作家名がちょうどいい位置に来るよう調整(これも半自動化できたかも)
  • 1日に複数回抜いている場合2回目以降の日付のグレーアウト
  • 1日に複数回抜いている場合の区切り罫線の削除

の4点で済むこととなり、すべて手作業で組版した場合との差で考えると圧倒的に短い時間でデータページを完成させることに成功しました。

頑張れば全自動化できそうかなと思ったのですが、そのためにはスクリプトによる組版を勉強しないといけなさそうで、組んでいるうちに締切を超えてしまいそうだったので次の機会に…ということで。次の予定があるわけではありませんが!

統計ページについて

データ分析作業は全てGoogleスプレッドシート上で行いました。

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データ分析は主宰がメインとなって作業を行っていたため、どのようなデータが出せるか、どのようなデータが興味深いかを考えながら、主宰自身がざっくりとしたデザインラフを作成しました。

インフォグラフィック風味でスッキリとしたレイアウトを目指しつつ、乗せる情報の取捨選択を行いました。

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このラフをデザイン担当が清書し、最終的には以下のような形になりました。

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比較してみると、ラフの段階でのレイアウトがほぼそのまま活かされていることが分かります。

「作品ジャンル別割合」が「時間別抜いた回数」に変わっているのは、月別でジャンル割合を出してもあまり有意な値が得られなかったためです。

月別の統計ページは同じレイアウトを使いまわしているため、最初の統計ページ以外は上記データをテンプレートとして主宰が作成しました。

一応主宰の私が企画・執筆担当で、うま夫がデザイン担当という事になっているものの、主宰自身もDTPの知識や各種ソフトの使い方は最低限心得ているため、こうして互いの得手不得手を有効に利用した作業の分担ができるのは私達の強みかもしれません。


グラフに関しては、良い作図ツールがすぐに見つからなかったのと、すでにスプレッドシートで統計を取っていたという2つの理由で、スプレッドシート上でグラフを生成しPDF出力したものをIllustratorで開き、ラベル等は手入力で入れ直すことにしました。

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スプレッドシートから出力できるPDFはRGBモードでそのままでは製版時に意図せぬグレーバランスになる可能性が高かったこともあり、カラーガイドデータを作成し、作業者(といっても2人ですが…)によってグレー具合がブレないように留意しました。

また必要なグラフ類のサイズやラベルも同時にガイドデータとして作成し、手作業の部分に関しても効率化を図りました。

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ちなみに、統計ページは基本色をスミ100ではなく90~80程度にしています。これは統計ページの一番メインで使った印刷用紙「b7バルキー」という「上質紙ベース・白く・厚く・やわらかい」紙の特性も踏まえ見開き誌面全体のトーンを少しだけ落ち着けたいと考えたためです。

(印刷線数は一般的な175線・AM製版でしたので、文字の読みやすさ等を天秤にかけてもスミ90~80をメインで使っても大丈夫と判断しました)

逆に、データページで使用した「OKアドニスラフ80」は白色度80%、ラフ系中質紙ということもあり、ページが重たい印象になっても、その方が紙自体との釣り合いが取れるのではないか、と考え基本色はスミ100にしました。

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紙の検討には見本紙帳を使用

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データページと統計ページの紙色の比較

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小口を見ると、紙色の差が出ていることが分かる
コラムページについて

データと統計だけでは少し物足りなさを感じるかもしれない、と思いコラムのページを用意しました。

途中で挟むことができなさそうだったので、全員のデータ統計が終わった後にそれを踏まえて……という内容となりました。

コラムは文章が大半を占めるため、先にざっくりと文章を用意し、それを元にデザインを起こしたあと、レイアウトに合わせて文章の長さや構成を調整する、といった流れで作業を行いました。

 

LPOPでは企画案やオタクと性に関する考察、ポエム、作家情報などあらゆる情報を共有するためにScrapboxというサービスを利用しており、抜いた記録でもまえがきやコラムなどの文章はScrapbox上で書いていました。

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Scrapboxに書いたコラム文章

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コラム1の初期案

完成版を見てもらえれば分かりますが、コラム1についてはかなりがっつりと文章構成が変わりました。また、当初コラム1だった内容の大部分はコラム2・あとがきに移動し、コラム1自体はほぼ別の内容に生まれ変わりました。

最終的な完成形を見据えて、文章量や改ページの位置などを考慮してコンテンツ部分を調整するというのも大事な工程です。

最終的にはaiデータを執筆者が開いて直接文章などを調整しました。これは同人誌ならではのワークフローかと思いますが、完成形を見ながら作業ができるのが一番手っ取り早いというのは事実です。

エンドロールについて

あとがきの後から始まるエンドロール部分についてですが、企画当初から「お世話になった作家さん達をスペシャルサンクスとして羅列したい」という案は上がっていました。

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スペシャルサンクス初期案

企画当初は上記のように、見開き4ページ程度の1コンテンツにしようと考えていました。

しかし、本の構成が固まってきて300Pを超えそうになってきた頃、「この計算だと320Pになりそうだから、余るページを有効活用できる手段は無いか…」という所から、1行組にして贅沢にページを使ってしまうというデザイン案ができました。

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そして、これを眺めていると「なんだか映画のエンドロールっぽいな…?」と気付き、開始を右ページにして一見奥付のように見せた後、ページを捲ると十数ページにも渡るエンドロールのようになっている…という構成が生まれました。

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 「これは、平成の終わりに爪痕を残す、ある(オタク)の物語である。」

このエンドロールによって、300P超に渡って綴られた私達の物語が幕を閉じる…という構成になっています。

ちなみに、エンドロール後のページにはエピローグ的な要素があります…

その他細かい話など

  • 1ページ目は最初まえがきから始まる予定だったが、「物語」の世界に入り込んでもらうために黒ベタのページを用意した
  • コンセプトの強い本であるため、イントロダクションの部分で「本を作った意図」「本の読み方、楽しみ方」などを丁寧に説明した
  • LPOPちゃんねるは「データの羅列が数百ページ続くのは読んでて飽きそう」という考えから、箸休め的なコーナーとして用意することにした
  • データページの見出し部分は月の始まりのページの色を濃くし、頭出しがしやすくした
  • コラム2は本の大部分を占める「事実の分析」を踏まえた「考察・示唆」を行うページであり、エッセイ色が強いため、他のページと明確に差別化するために黒地とした
  • 帯に隠れる袖部分にも遊びを入れた
  • ノンブルの書体に至るまで比較検討を行った

 …などなど、正直このブログでは書ききれない所まで、本当に隅々にまでこだわって作っているので、是非最初から最後のページに至るまで読み尽くして頂きたいです。

特設サイトについて

こんな大層な本を作るからには、特設サイトもあって然るべきだろう…

という事で、入稿を済ませた後に作り始めました。

特設サイトの制作は主宰が担当しました。あまり時間もなかったので、簡単に作れて見栄えもまあまあ良い、よくある視差効果を用いたWebサイトにしました。

スクロール関連の制御にWaypoints、カルーセルビューにはslickを使っています。

視差効果はz-indexだけで簡易的に実装しており、内容部分は背景とは別で固定レイアウトでスクロール時にフェードイン・アウトするようになっているため、下から上へ高速スクロールすると背景が切り替わるよりもコンテンツ部分が消えるのが遅くて若干変な見え方になったりします。

厳密に視差効果を実装しようとするとスクロールイベントをフックして処理を行う必要があり重くなりやすいため、なるべくCSSのみで表現しています。そのため、フェードイン・アウトなどもCSSのアニメーションを使ってクラスの付け替えだけで表現しています。

 

また、恐らくTwitter経由でスマートフォンで見る人が多いだろうということから、レスポンシブ対応も行いました。縦長画面では視差効果を使ったレイアウトは難しいため、通常の縦スクロールレイアウトにしています。

レスポンシブ対応はCSSのメディアクエリを用いてワンソースで対応しています。

 

ホスティングにはNetlifyというサービスを使いました。無料で使えて非常に使い勝手が良く、HTTPS対応やCDNが標準で使えたりと至れり尽くせりでオススメです。また別途機会があれば紹介記事を書きたいと思います。

 

アクセス数などを見るために、Googleアナリティクスも設置しました。

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Googleアナリティクスを見て気付いたことですが、コミケ前の閲覧ユーザーはやはりスマートフォンの比率が高めでした。12/24~12/31までのユーザーの約7割がスマートフォンからのアクセスでした。

特設サイトを作るなら、スマートフォン対応は必須だと言えるでしょう。

制作を振り返って

振り返ってみると本当に色々工夫してやっていたんだな…と感じますが、改めて良かった点と反省点を整理してみたいと思います。

良かった点

  • 早い段階から制作に向けて動き始められたこと
  • 細かい箔押しが予想上に綺麗に出たこと
  • 作業の効率化を行うことによって、全体的なクオリティアップに時間を割けたこと
  • プリントアウトしたり色校正を出してなるべく完成品に近い状態で確認し、全体を見ながらの細かい調整を行う手間を惜しまなかったこと
  • 「企画が面白そう」「デザインが凝っている」など、購買意欲を刺激する仕掛けを複数用意できたこと
  • 買い子のおかげで、ぱん先生・館川まこ先生・muku先生のグッズが買えたこと

反省点

  • 3人分の1年間のデータを揃えられればもっと良かった
  • カバーと帯の裏側が予想以上にツルツル滑ってしまったので上質ベースの片面アート紙にしても良かった
  • ページ数が多いので、スピン(しおり紐)を付けたほうが良かった
  • 背幅のバッファを1ミリ弱太めに計算してしまったので少し表1側がズレてしまったこと
  • グラフの処理方法、見せ方はもう少し検討の余地があった
  • データページの各種類アイコンはもっと見やすく出来たかも
  • 特設サイトの構築に手間がかかり、情報公開が遅くなってしまったこと
  • 本の体積が大きく、ギリギリまで搬入したためスペースで身動きが取れないレベルだったこと

おわりに

さて、全部語り尽くすぞ!と意気込んで書いていたらこんな長さになってしまいました。

これでも語り尽くせていない所もあったりするのですが…キリが無いのでこの辺で終わりにしたいと思います。

この記事が少しでも皆さんの役に立てたなら幸いです。

 

『抜いた記録』の反響を受けて思うこと

『抜いた記録』はお陰様で結構な反響を頂いているのですが、

「自分の他にも静止画で抜いてる人が居て安心した」

「月に1度くらい三次元で抜きたくなるのが一緒で安心した」

といった共感の声から、

「オタクって本当に二次元で抜いてるのか…」

といった驚きの声まで様々な感想がありました。そう、まさにそういう感想を求めて『抜いた記録』を作ったのです…!

 

性事情、性癖って本当に千差万別だと思うのですが、意外と皆「自分が標準」という意識を少なからず持っていて(私もそうでした)、それに加えて他人の性事情を知る機会が無いので、自分と他人との違い、世間一般との違い(そもそも世間一般の性事情とは?)に気付いていない人が多いように感じます。

本のまえがきでも語ったのですが、自身の「オタクの性事情のサンプルケース」を提示することによって、性について考えるきっかけを作りたい、というのが『抜いた記録』の制作意義でした。

その狙いが少しでも達成できていたなら、私達としても本望です。

 

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さて、今回ご紹介した『抜いた記録』は以下の書店・通販サイトにて販売中です!よろしくお願い致します!

購入者アンケート募集中!

『抜いた記録』をご購入された方に向けて、簡単なアンケートを用意しました。

5~10分ほどで回答できるものとなっていますので、LPOPの今後の活動の参考のためにも是非お答え頂ければ幸いです!

 

文:妹、インターネットうま夫

編集:妹